不動産売買で住宅ローンが否決されても、直ちに違約金が発生するわけではありません。一般的なローン特約が有効に適用されれば、売買契約は無条件で解消され、売主は受領済みの手付金を返還し、買主に違約金を請求できないのが基本です。
一方、解除期限を過ぎた、必要な融資申込みをしていない、申込内容を変えた、連帯保証人などの融資条件を満たさなくなったといった事情があると、ローン特約が使えないことがあります。そのまま残代金を支払わなければ、買主の債務不履行として違約解除され、手付金を違約金に充当されたうえで、さらに差額を請求される可能性があります。
- ローン特約が有効なら、原則として違約金は発生せず手付金は返還される
- ローン特約、手付解除、契約違反による解除は別の制度である
- 期限、通知、申込内容、買主の協力状況が主な分岐点になる
- 違約金を請求されたら、契約書と融資審査の経過を時系列で確認する

- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立
Contents
結論:ローン特約の適用可否が違約金の分岐点
ローン特約で違約金が発生するかは、単に「ローンが落ちたか」ではなく、契約書に定めたローン特約の要件を満たして解除できたかで決まります。典型的な分岐は次のとおりです。
| 解除のルート | 契約の処理 | 手付金・違約金 |
|---|---|---|
| ローン特約による解除 | 解除権留保型では期限内に解除し、解除条件型では条件成就により自動的に終了 | 受領済みの手付金は返還され、通常は違約金も発生しない |
| 手付解除 | 買主は手付放棄、売主は手付倍返しにより解除 | 買主側は手付金を失うが、通常は別途の違約金までは負担しない |
| 契約違反による解除 | 残代金不払いなどを理由に、契約所定の手続を経て解除 | 約定違約金が発生し、既払手付金が違約金に充当されることがある |
もっとも、どのルートになるかは、契約書の文言と当事者の行動によって変わります。まずは不動産売買のローン特約の基本と条項のチェックポイントを確認し、対象となる金融機関、融資額、承認期限、解除期限、不適用事由を特定する必要があります。
ローン特約・手付解除・違約解除は別の制度
ローン特約による解除
ローン特約は、予定した融資を受けられない場合に、買主が売買契約から離脱できるようにする特約です。一般的な条項では、特約に基づく解除が成立すると、売主は受領済みの金員を無利息で返還し、買主に損害賠償や違約金を請求しないと定められています。
ただし、ローン特約には、買主が期限内に解除の意思表示をする「解除権留保型」と、期限までに融資承認が得られなければ自動的に契約が終了する「解除条件型」があります。前者では解除通知の到達時期が重要であり、後者では通知がなくても終了する可能性があります。名称だけで判断せず、契約条項を読むことが必要です。
手付解除
手付解除は、ローン審査の結果を理由とするものではありません。買主は手付金を放棄し、売主は受領した手付金の倍額を償還して、契約書所定の期限または相手方が履行に着手するまで解除する制度です。
買主がローン特約を使えなくても、手付解除の期限内であれば、手付放棄によって損失を限定できる場合があります。ただし、期限経過後や相手方の履行着手後は利用できないことがあります。詳しくは手付解除の期限とできないケースをご確認ください。
契約違反による解除
ローン特約も手付解除も使えず、買主が残代金を支払わない場合、売主は契約書に従って履行を催告し、契約違反を理由に解除したうえで違約金を請求することがあります。単に買主が「購入をやめたい」と述べただけで直ちに違約金が確定するとは限りませんが、解除通知や覚書への署名によって不利な合意が成立することもあります。
一般的な違約金条項や宅建業法上の上限については、不動産売買の解約違約金の考え方もあわせてご覧ください。
ローン特約が使えるかを決める7つのチェックポイント
- ローン特約が契約書に存在するか
口頭で「ローンが通らなければ白紙」と言われただけでは、合意内容の立証が難しくなります。売買契約書、特約条項、重要事項説明書、確認書を確認します。 - 申込先・融資額・借入期間などが特定されているか
契約で指定された金融機関や融資条件と、実際の申込みが一致しているかが問題になります。「都市銀行他」「○○銀行ほか」などの文言がどこまで含むかも争点になり得ます。 - 契約後、速やかに必要な申込みをしたか
正式な申込書の提出、必要書類の提出、面談、追加資料への対応を行ったかを確認します。単なる相談や事前打診だけでは足りない場合があります。 - 融資不成立の原因が買主側にあるか
転職、新たな借入れ、虚偽申告、団体信用生命保険の告知、連帯保証人の拒否、共同担保の提供拒否などが原因であれば、特約の適用が否定される可能性があります。 - 融資承認取得期日と解除期日を守ったか
契約書には、融資承認を得る期限と、解除権を行使する期限が別に定められていることがあります。両方を確認しなければなりません。 - 解除通知が相手方に届いたことを証明できるか
解除権留保型では、期限内に売主へ解除の意思表示が到達したかが重要です。仲介業者に伝えただけで足りるかは、仲介業者の権限や伝達状況によって争いになるため、売主本人にも書面で通知するのが安全です。 - 期限延長が明確に合意されているか
決済日だけを延長しても、融資承認期限やローン特約による解除期限まで当然に延長されるとは限りません。延長対象と新しい期日を明記した覚書やメールを残す必要があります。
特に重要なのは、ローン特約に「買主の責めに帰すべき事由」「必要な手続をしなかった場合」「申込内容を変更した場合」などの除外条項があるかです。金融機関から否決された事実だけでは、特約が適用されるとは断定できません。
違約金が問題になりやすい典型ケース
融資申込みをしていない・必要書類の提出が遅い
契約後に正式な融資申込みをしない、必要書類を提出しない、銀行との面談に応じないなど、買主が審査を進めるための協力を怠った場合は、ローン特約の適用が否定されやすくなります。
一方、必要書類を提出し、金融機関の指示に対応していたのであれば、結果的に審査が間に合わなかっただけで直ちに違約金が発生するとは限りません。契約条項が、速やかな申込みを解除要件としているか、単に期限までに承認が得られないことを要件としているかも確認します。
申込内容を変えた・連帯保証人などの条件が崩れた
事前審査や本審査で前提とした連帯保証人、連帯債務者、共同担保、自己資金などの条件を後から変更すると、買主側の事情で融資が実行されなかったと評価される可能性があります。
また、契約後の転職、退職、新たな自動車ローンやカードローン、申告内容の訂正なども審査結果に影響します。変更自体が直ちに違約金を生じさせるわけではありませんが、融資不成立との因果関係がある場合は、ローン特約が使えない理由になり得ます。
融資を受けられないようにしたと疑われる
購入意思を失った後、あえて通りにくい金額で申し込む、必要資料を出さない、承認されそうな申込みを取り下げるなどの行為は、いわゆる「ローン崩し」と主張されることがあります。
ただし、金融機関の提案により保証料を含めて申込額を合理的に増額した、条件付き承認では必要な自己資金を用意できなかった、否決を避けるため銀行の助言で申込みを取り下げたなど、取下げや条件変更に合理的な理由がある場合もあります。形式だけでなく、経緯と因果関係を確認する必要があります。
解除期限を過ぎた・延長の合意が曖昧
ローン特約は期限管理が極めて重要です。融資否決を知りながら解除せず、他の資金調達を試すうちに相当期間が経過した場合、解除権が消滅したと判断されることがあります。
また、残代金決済日を延期しただけでは、ローン特約の期限も延長されたとは限りません。口頭の延長合意が認定されることもありますが、立証できなければ違約金の負担につながります。
指定された融資条件と違う申込みをした
契約書に金融機関、融資額、借入期間、金利種別、共同担保などが具体的に記載されている場合、そこから外れた申込みで否決されてもローン特約を使えない可能性があります。
他方、契約書の記載が「都市銀行他」など幅を持つ場合や、諸費用を含めるため合理的な範囲で申込額が変動した場合は、直ちに違反とは限りません。契約締結時の説明、資金計画表、金融機関からの提案内容が重要な証拠になります。
手付金返還と違約金の計算方法
例えば、売買代金5000万円、手付金300万円、契約違反時の違約金を売買代金の20%とする契約を考えます。
- ローン特約による解除が有効なら、手付金300万円は返還され、1000万円の違約金は通常発生しません。
- 買主が期限内に手付解除するなら、手付金300万円を放棄しますが、通常はさらに700万円を支払うことにはなりません。
- ローン特約も手付解除も使えず、買主の債務不履行を理由に違約解除された場合、違約金1000万円から手付金300万円を控除し、残額700万円を請求されることがあります。
この計算は典型例であり、契約書によって、手付金を違約金に充当する方法、催告の要否、解除時期、追加請求の可否が異なります。「手付金を没収する」と言われただけで、違約金の全額が確定したとは限りません。
宅建業者が売主の場合の20%上限
宅地建物取引業者が自ら売主となり、買主が宅地建物取引業者ではない取引では、損害賠償額の予定と違約金の合計が売買代金の20%を超える定めは、超える部分が無効となります。これは宅地建物取引業法38条による規制です。
個人売主の取引では、この20%上限がそのまま適用されるわけではありません。また、20%は「必ず支払う金額」ではなく上限規制です。そもそもローン特約による解除が有効なら、違約金条項の適用場面ではありません。
裁判例から見る手付金返還・違約金の分岐
裁判例では、契約条項、申込みの経過、期限管理、融資不成立の原因が具体的に検討されています。代表例を整理すると次のとおりです。
| 裁判例 | 結論 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 東京高裁平成7年4月25日判決 | ローン特約による解除を否定 | 融資拒絶後も解除せず、資金調達の見込みが断たれてから相当期間が経過したため、解除権が消滅したと判断 |
| 東京地裁平成28年11月22日判決 | 手付金100万円の返還を認容 | 期限までに複数行の承認が得られず、合理的理由による少額の申込増額や携帯電話割賦の不申告だけでは返還拒絶事由にならないと判断 |
| 東京地裁平成31年1月9日判決 | 手付金300万円の返還を認容 | 事前審査の承認は正式審査の承認ではなく、融資承認取得期日までに正式承認がなかったとして解除を認めた |
| 東京地裁令和元年6月11日判決 | 違約金880万円の支払を認容 | 決済期限の延長だけでは融資解除特約の延長にならず、約定違約金980万円から手付金100万円を控除 |
| 東京地裁令和3年1月6日判決 | 手付金返還を認容し違約金請求を棄却 | 当事者のやり取りからローン特約期限の延長合意を認定し、延長後の期限内の解除を有効と判断 |
| 東京地裁令和3年8月10日判決 | 手付金472万円の返還請求を棄却 | 連帯保証人になる予定の夫が保証を拒否したことを、審査後の申込内容変更かつ買主の責めに帰すべき事由と判断 |
| 東京地裁令和4年2月28日判決 | 手付金500万円の返還を認容し違約金1700万円の請求を棄却 | 指定銀行への資料提出と複数金融機関への相談を踏まえ、合理的努力の不足や解除を否定するほどの帰責事由はないと判断 |
同じ「ローンが実行されなかった」事案でも結論が分かれています。裁判例をさらに類型別に確認する場合は、ローン特約の裁判例と判断ポイントや、不動産適正取引推進機構のローン解除・特約の裁判例一覧が参考になります。
違約金を請求されたときに集める証拠
ローン特約トラブルでは、後から作った説明より、当時の契約書と時系列資料が重視されます。少なくとも次の資料を確保してください。
- 売買契約書、特約条項、重要事項説明書、資金計画表
- 融資申込書、事前審査・本審査の受付記録、提出書類の控え
- 金融機関の否決通知、条件付き承認書、担当者とのメールや面談記録
- 仲介業者・売主とのメール、LINE、録音、通話履歴
- 融資承認期限・解除期限・決済日を延長した覚書やメッセージ
- 解除通知書、内容証明郵便、配達証明、メール送信記録
- 手付金その他の支払記録、返還請求書、違約金請求書
金融機関が否決理由を詳しく開示しないこともあります。その場合でも、いつ、どの条件で、どの資料を提出し、どの回答を受けたかを時系列表にすると、買主の合理的努力や帰責事由の有無を検討しやすくなります。
買主側の初動
- 解除期限を確認し、期限前に売主へ明確な解除通知を送る
- 仲介業者だけに任せず、売主への到達を確認する
- 承認済み申込みの取下げや申込条件の変更をする前に理由を記録する
- 期限延長が必要なら、承認取得期日と解除期日の双方を書面で変更する
- 違約金を認める覚書や債務承認書に、内容を確認せず署名しない
売主側の初動
- 買主の申込先、金額、提出日、否決日、解除通知日を確認する
- ローン特約の不適用事由と融資不成立との因果関係を整理する
- 直ちに手付金没収と決めつけず、解除条項と催告手続を確認する
- 違約解除する場合は、履行期、催告、解除通知、違約金の算定を契約に沿って行う
仲介業者が解除通知を預かった場合は、売主への伝達を遅らせないことも重要です。東京地裁令和3年10月22日判決では、期限前に受け取った解除の意思表示を売主へ伝えず秘匿した売主側仲介業者に、手付金と内金合計900万円相当の損害賠償責任が認められました。
よくある質問
事前審査に通って本審査に落ちた場合も解除できますか
事前審査の承認が正式な融資承認を意味しない契約であれば、本審査の承認を期限までに得られなかったことを理由に解除できる可能性があります。ただし、本審査で落ちた原因が契約後の転職、新規借入れ、虚偽申告などにあると、特約が使えないことがあります。詳しくはローン特約と事前審査・本審査否決の関係をご覧ください。
希望額の一部だけ承認された場合はどうなりますか
契約書が「融資の全部または一部について承認が得られないとき」と定めているか、売買代金を支払えるだけの資金が確保できたか、申込額の差が合理的範囲かによって変わります。少額の減額でも解除できると一律に考えるのは危険です。
ローン特約の期限は口頭で延長できますか
口頭の合意も理論上は成立し得ますが、後から「決済日だけを延長した」「ローン特約は失効した」と争われることがあります。融資承認取得期日、解除期日、決済日を区別し、売主・買主が署名した覚書または明確なメールで残すべきです。
金融機関の否決通知書がないと解除できませんか
否決通知書が常に法的要件とは限りませんが、融資不成立を示す重要な証拠です。書面が発行されない場合は、金融機関からのメール、申込受付記録、担当者とのやり取り、仲介業者への報告記録などを確保してください。
売主が解除を認めないと言えばローン特約は使えませんか
ローン特約による解除の効力は、売主が任意に「認める」と言ったかだけで決まるものではありません。契約上の要件を満たし、期限内に解除の意思表示が到達していれば、売主が争っても解除が有効と判断される可能性があります。もっとも、通知方法や帰責事由が争点になるため、証拠を残したうえで対応することが重要です。
まとめ
- ローン特約による解除が有効なら、通常は違約金は発生せず、手付金は返還される
- 特約が使えない場合でも、手付解除の期限内なら損失を手付金に限定できることがある
- 期限徒過、通知不備、申込手続の懈怠、条件変更、買主の帰責事由が主な争点になる
- 違約解除では、既払手付金を違約金に充当し、差額請求が生じることがある
- 判断には契約条項と融資審査の時系列資料が不可欠である
ローン否決後は期限が短く、仲介業者との電話だけで進めると証拠が残らないことがあります。高額な違約金を請求された場合や、売主が手付金の返還を拒んでいる場合は、解除通知や覚書に署名する前に契約書と審査経過を整理してください。ローン特約の適用可否、手付金返還、違約金請求の見通しについては、ローン特約トラブルの法律相談でご案内しています。
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