サブリース会社から「事業から撤退する」「来月で保証賃料の支払を終える」「契約を中途解約する」と通知された貸主は、通知を受けただけで無償終了に応じる必要があるとは限りません。まず確認すべきなのは、会社側の中途解約権、予告期間、違約金、無償解約事由、実際の契約履行段階、敷金等との精算です。

この記事が扱うのは、貸主がサブリース契約を終わらせたい場面ではなく、サブリース会社側から契約終了を求められた場面です。違約金に法定の固定相場はなく、契約書に「12か月分」と書かれていても、どの期間・どの賃料を基礎に計算するかが争われることがあります。通知を受けたら、解約合意書へ署名する前に、請求総額だけでなく敷金相殺後の純回収額と会社の資力を確認してください。サブリース問題全体は、貸主・オーナー向けのサブリース法律相談案内もご覧ください。

  • 会社側中途解約と期間満了・更新拒絶は別であり、使える条項と終了日が異なります。
  • 予告期間賃料、即時解約金、未払保証賃料、実損害は別項目として整理します。
  • 事業不振や採算悪化だけで無償解約できるとは限りません。契約条項の要件を確認します。
  • 違約金の総額だけでなく、敷金・保証金、反対債権、税、回収費用を反映した純回収見込額を計算します。
執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

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貸主から解約する場合と会社から解約された場合を分ける

サブリース契約では、一般に所有者が貸主、サブリース会社が借主兼転貸人です。貸主から契約を終了させる場合には、普通建物賃貸借であれば正当事由や立退料が問題になることがあります。これに対し、会社側からの中途解約では、まず会社に契約期間中の解約権があるか、どの予告・金銭負担が定められているかを確認します。

貸主側からの解約を検討している方は、サブリース契約を解約できないときの正当事由・立退料・判例をご覧ください。本記事では、会社側から通知された貸主の損害回収に絞ります。


会社側解約で最初に確認する六つの終了パターン

終了パターン 確認する点
予告期間を置く通常の中途解約 解約権の有無、通知方法、予告期間、終了日までの賃料
予告期間に代わる金銭を払う即時解約 解約金の月数、算定基礎、支払と終了の関係
無償解約事由による解約 不可抗力、許認可、引渡遅延等の要件と事実
期間満了・更新拒絶 通知期限、更新条項、中途解約条項との違い
債務不履行解除 貸主側の違反、催告、解除要件、損害との関係
解約手続を取らない支払停止 契約が存続したまま未払賃料が発生していないか

会社の通知書に「解約」「解除」「撤退」とだけ書かれていても、どの条項に基づくか明確でないことがあります。通知全体、会社の主張、契約履行状況から法的意味を確認します。

引渡前と引渡後では損害構造が異なる

新築一棟やホテル等では、契約締結後も建物が未完成で、まだ引渡しも賃料発生もしていない段階で会社が解約することがあります。稼働中の物件では、入居者、転貸賃料、敷金、管理移行が既に存在します。違約金条項が同じでも、条項目的と履行段階により適用範囲が異なる可能性があります。


中途解約条項の読み方

契約書では、次の項目を一つずつ確認します。

  • 契約期間と更新方法
  • 会社側からの中途解約権の有無
  • 何か月前までに、どの方法で通知するか
  • 予告期間に代えて金銭を支払えるか
  • 「違約金」「解約金」「損害賠償額の予定」の文言
  • 算定基礎が保証賃料だけか、共益費・消費税等を含むか
  • 不可抗力、許認可不取得、引渡遅延等の無償解約事由
  • 敷金・保証金の返還時期と相殺条項
  • 契約書外の覚書、変更合意、実際の支払額

契約書上の月額と実際の合意額が違う場合

契約締結後の覚書や協議により、支払賃料が変更されていることがあります。違約金の計算では、表紙の名目額だけでなく、当事者が最終的に合意し、実際に履行しようとしていた金額が問題になる場合があります。メール、覚書、請求書、入金実績を確認してください。

賃貸住宅では重要事項説明書も確認する

賃貸住宅の特定賃貸借契約について、国土交通省は、契約期間中にサブリース会社から解約できる特約や違約金等を重要事項として説明する制度を案内しています。国土交通省の賃貸住宅管理業法ポータルサイトも確認してください。ただし、この行政上の説明ルールが、ホテル、店舗、事業用ビル等へ同じように適用されるとは限りません。また、説明上の問題があるだけで違約金全額が当然に認められるわけでもありません。


予告期間賃料・違約金・未払賃料・実損害の違い

請求項目 内容 注意点
予告期間中の保証賃料 通知後、契約終了日まで発生する契約上の賃料 会社が使用・転貸を停止しても当然に消えるとは限らない
予告期間に代わる金銭 即時終了のため、予告期間相当額を支払う条項 支払が終了の条件か、単なる債務かを確認
違約金・損害賠償額の予定 契約違反や中途終了時の損害額をあらかじめ定めたもの 条項の適用場面と損害の重複を確認
既発生の未払保証賃料 解約通知前又は終了前に支払期が来た賃料 違約金とは別債権として計算
残存期間の逸失利益 契約が続けば得られた利益 残存全賃料が当然に認められるわけではない
建築・改修等の実損害 会社との契約を前提に支出した費用等 因果関係、回収済み部分、他用途利用可能性を確認

違約金条項が損害賠償額の予定と解釈される場合、同じ損害についてさらに実損害を重ねて請求できないことがあります。他方、既に発生した未払賃料や、違約金の対象外となる別損害は併存し得ます。項目ごとに損害の中身を示すことが必要です。


無償解約事由が認められるか

会社が「不可抗力」「コロナ」「採算悪化」「許認可が取れない」「引渡しが遅れた」と述べても、直ちに無償解約できるとは限りません。契約条項にどのような要件が書かれ、その要件が通知時点で満たされていたかを確認します。

事業不振・採算悪化

会社の収支が悪化したことは、契約上の無償解約事由として明記されていなければ、通常の事業リスクと評価される可能性があります。転貸賃料が下がった、空室が増えたという事情は、賃料減額請求の問題になることはあっても、当然に無償解約権を発生させるとは限りません。

不可抗力・感染症・災害

不可抗力条項の文言、契約目的、影響の期間、代替履行の可能性、当事者の協議経過を確認します。「感染症が発生したから常に不可抗力」「経営が苦しいから解除できる」という一般化はできません。

許認可・引渡遅延

ホテルや事業用建物では、許認可取得や引渡日が契約の前提になっている場合があります。ただし、後に引渡時期を変更する合意をした、会社側も遅延を前提に準備を進めたなどの事情により、当初の無償解約条項を使えないことがあります。


違約金と純回収額の計算方法

請求額は、まず契約上の総額を計算し、次に相殺・反対債権・回収費用を反映します。

総請求額 = 既発生未払賃料 + 予告期間賃料又は違約金 + 認められる別損害 + 遅延損害金

純回収見込額 = 総請求額 - 返還すべき敷金・保証金 - 相手方の反対債権 - 回収費用・執行リスク

月別計算表を作る

項目
解約通知到達日 通知の配達記録で確認
契約上の終了日 予告期間又は条項により算定
算定基礎賃料 契約書・変更合意・実入金を確認
対象月数 条項目的と履行段階を踏まえて算定
未払賃料 支払期到来済み分を別計上
敷金・保証金 返還額と相殺の意思表示を確認

違約金の月数だけを見て請求書を作ると、算定基礎や対象期間の争いを見落とします。消費税、共益費、フリーレント、賃料免責、段階賃料も確認してください。


敷金・保証金との相殺

会社が貸主へ敷金・保証金を差し入れている場合、契約終了時には返還請求権が発生し、貸主の違約金・未払賃料債権と相殺できることがあります。ただし、敷金返還時期、控除できる債務、相殺の意思表示、同時履行関係は契約と法律関係により確認が必要です。

和解書や解約合意書では、「違約金総額」「敷金返還額」「相殺後の支払額」「支払期日」を分けて記載してください。純額だけを書くと、後に税務・会計・債権範囲をめぐる争いが生じることがあります。


東京地裁令和5年4月27日判決の具体例

ホテル用建物のサブリース契約をめぐり、会社側の中途解約と違約金が争われた事案です。契約書には月額350万円、即時解約の場合は12か月分の賃料等相当額を支払う条項、一定の引渡遅延等を理由とする無償解約条項がありました。

会社は、主に引渡遅延を理由とする無償解約を主張しましたが、裁判所は、当事者間で引渡時期を変更する合意があったとして、その無償解約事由を認めませんでした。一方、通知全体は、金銭を支払う即時解約条項に基づく申入れとして効力を持つと判断しました。

認められた違約金の計算

  • 契約書上の賃料:月額350万円
  • 実際の支払合意として認定された賃料:月額300万円
  • 対象期間:5か月
  • 違約金:1500万円
  • 敷金返還請求権:300万円
  • 相殺後の認容額:1200万円

この判決を「12か月分の条項を裁判所が過大として5か月へ自由に減額した」と理解するのは適切ではありません。裁判所は、引渡前には賃料が発生しないという契約の履行段階と、即時解約条項が貸主の賃料収入喪失を補う趣旨であることから、適用期間と算定基礎を解釈しました。引渡前のホテル用建物という特殊事案であり、稼働中の居住用サブリースへ同じ計算をそのまま当てはめることはできません。


解約通知を受けた直後にすべきこと

  1. 通知書と到達日を保存する:封筒、配達記録、メールヘッダーも残します。
  2. 根拠条項を書面で確認する:無償解約か有償解約かを曖昧にしません。
  3. 権利を留保して回答する:終了や清算に同意したと誤解される表現を避けます。
  4. 敷金を先に返さない:違約金・未払賃料との相殺可能性を確認します。
  5. 履行準備を維持する:貸主側の引渡義務違反を主張されないよう、必要な対応を続けます。
  6. 会社の資力を調べる:支払遅延、一斉通知、資産、転貸賃料の入金先を確認します。
  7. 管理移行を準備する:入居者、敷金、契約書、鍵、保証会社を引き継ぐ工程を作ります。

会社が提示した解約合意書には、違約金放棄、相互清算、未払債権の不存在、守秘義務等が含まれていることがあります。署名後に追加請求できなくなる可能性があるため、金額だけでなく清算条項を確認してください。


交渉・仮差押え・訴訟の進め方

任意請求・交渉

契約条項、通知、時系列、月別計算表を示し、終了日、未払賃料、違約金、敷金相殺、管理引継ぎを一括して交渉します。分割払いを受ける場合は、期限の利益喪失、担保、保証、債務承認、公正証書等を検討します。

仮差押え

会社の資力悪化が疑われ、預金口座、転貸賃料債権、不動産等を特定できる場合は、訴訟前又は訴訟中の仮差押えを検討します。請求額が大きくても、資産が散逸した後では回収が困難です。

訴訟・強制執行

無償解約事由、違約金条項、算定基礎、相殺等が争われる場合は訴訟で確定します。判決・和解調書等を得た後は、預金、売掛金、賃料債権、不動産等への強制執行を検討します。勝訴可能性と回収可能性を同時に評価してください。

通常の未払保証賃料や預り金の回収は、サブリース会社の賃料未払い・無断控除・敷金等を回収する方法もご覧ください。


相談前に準備しておく資料

  • マスターリース契約書、別紙、約款、覚書、変更合意
  • 重要事項説明書、事業計画、建築・改修契約
  • 解約通知書、封筒、メール、配達記録
  • 引渡予定日、実際の工事・許認可・開業準備の時系列
  • 月額賃料、共益費、消費税、免責期間、実入金の資料
  • 敷金・保証金、建築協力金等の入出金資料
  • 会社が主張する無償解約理由の資料
  • 未払賃料、違約金、別損害の月別計算表
  • 入居者・転借人、敷金、契約書、鍵の引継ぎ状況
  • 相手会社の登記、資力、他オーナーへの通知

弁護士へ相談する価値が高い案件

  • 一棟、ホテル、店舗、事業用ビル、複数棟で請求額が大きい
  • 6か月分・12か月分等の違約金条項がある
  • 会社が無償解約事由を主張しているが要件に疑問がある
  • 契約書上の賃料と実際の合意額が異なる
  • 違約金、未払賃料、敷金、建築・改修費が複合している
  • 会社の資力悪化が疑われ、仮差押え対象を特定できる
  • 入居者承継と管理切替えまで一括して解決する必要がある

区分所有の一室で請求額が数十万円にとどまり、会社に資力もない場合は、正式受任より単発相談や書面レビューが適することがあります。契約条項、純回収見込額、必要費用を比較します。


会社側の中途解約・違約金に関するよくある質問

30年一括借上げでも会社は途中で解約できますか

契約期間の表示だけでは判断できません。会社側中途解約条項、予告期間、違約金、無償解約事由、重要事項説明を確認します。

12か月前予告なら12か月分を必ず請求できますか

必ずしもそうではありません。予告期間中に契約が存続するのか、即時解約金なのか、履行段階、算定基礎、別の終了事由を確認します。

違約金の相場は何か月分ですか

法定の固定相場はありません。契約書、物件用途、月額賃料、残存期間、履行段階、会社側の解約理由により異なります。

コロナや事業不振なら無償解約されますか

一般論では決まりません。不可抗力・無償解約条項の文言と、影響の内容、期間、契約目的、協議経過を確認します。

違約金と残存期間の全賃料を両方請求できますか

同じ損害を重複して請求できるとは限りません。違約金条項の法的性質と対象損害、別損害の有無を分けます。

敷金は違約金から差し引けますか

相殺できる場合がありますが、敷金返還請求権の発生時期、控除対象、相殺通知を確認します。合意書では総額と相殺後純額を分けて記載します。

解約通知後も保証賃料を請求できますか

契約上の終了日までは賃料が発生する場合があります。通知を出した日と契約終了日は同じとは限りません。

全国からオンライン相談できますか

当事務所は、貸主・物件オーナー側のサブリース問題について、全国からオンライン相談に対応しています。契約書、通知書、金額表を事前に共有すると検討が進みやすくなります。


まとめ

  • 会社側の通知が、期間満了、中途解約、即時解約、無償解約、解除のどれに当たるかを確認します。
  • 予告期間賃料、違約金、未払賃料、残存利益、建築・改修費を別項目として整理します。
  • 無償解約事由は契約文言と通知時点の事実から判断し、事業不振だけで当然に認められるとは限りません。
  • 違約金の月数だけでなく、対象期間、実際の賃料合意、敷金相殺後の純回収額を計算します。
  • 解約合意書へ署名する前に、清算条項、会社資力、仮差押え、入居者・敷金・管理の引継ぎを確認します。

会社から契約終了を通知されたときは、終了を受け入れるか拒むかだけでなく、契約上の金銭をどう確定し、回収可能なうちにどの手段を取るかを検討してください。高額案件では、条項解釈と資力確認を並行して進めることが重要です。

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